東南アジア共通訪日客・自治体の発信
自治体の東南アジア向け観光 PR の進め方|国の選び方から成果報告まで
公開 更新 約 7.3 千字
地元の市の観光課から相談を受けました。うちの会社が市の物産振興の協議会に入っている縁です。東南アジアに向けて観光と特産品を発信したいそうなんですが、どこから手を付ければいいのか、担当の方も決めかねています。
自治体の東南アジア向けの発信は、国を選ぶ、原稿を現地の言葉にする、配信日を決める、報告書にまとめるの 4 つを順番に決めれば進みます。今日はその順番で進めます。
担当の方が特に気にしていたのは、年度内に成果を示さないといけない点でした。
そこが企業の広報と一番違うところです。先に、なぜ止まりやすいのかを確認しておきます。
自治体の東南アジア向け観光 PR が止まりやすい理由
市の担当者は熱心なんですが、去年も検討だけで終わったと聞きました。何が引っかかるんでしょうか?
担当者の力不足ではなく、予算と契約の決まりが、海外向けの発信と合いにくいんです。予算は年度ごとに組まれ、使った結果を年度の終わりに報告します。一方で、海外に記事が出て、それを読んだ人が旅行に来るまでには時間がかかります。
成果が出る前に年度が終わってしまう、と。
そうです。もうひとつは契約です。現地の PR 会社に頼む場合、見積もりを取り、仕様を決め、海外の事業者と契約を結ぶことになります。自治体によっては、海外の事業者との契約や外貨での支払いに、追加の手続きが要る場合があります。
国内の業者に頼むのとは、手間が違いそうですね。
はい。なので、最初の年は「年度内に終わる大きさ」に絞るのが現実的です。国を 1 つか 2 つに決め、発信を 1 回か 2 回行い、どこに載ったかを記録する。ここまでなら年度内に収まります。
最初の年に決める 4 つ
- どの国に向けて出すか (公的な統計を根拠にする)
- 何語の原稿で出すか
- いつ配信するか (来てほしい月から逆算する)
- 報告書に何を載せるか (配信する前に決めておく)
なるほど。では 1 つ目の、国の選び方から教えてください。
発信する国を訪日客数の統計で選ぶ
東南アジアといっても 6 か国あります。どの国に出すかは、何を根拠に決めればいいですか?
観光なら、日本政府観光局 (JNTO) の訪日外客数を使います。議会や財政担当に説明するときも、公的な統計なら出典をそのまま書けます。2025 年に 6 か国から日本に来た人は、合わせて約 480 万人でした。
一番多いのはどの国ですか?
タイで、約 123 万人です。次がフィリピンの約 89 万人、シンガポールの約 73 万人と続きます。ただし、総数だけで順位を付けないでください。この統計には、観光以外の目的で来た人も入っています。
| 国 | 訪日外客数 (2025 年) | うち観光客 | うちその他客 | 農林水産物・食品の輸出額 (2025 年) |
|---|---|---|---|---|
| タイ | 1,233,103 人 | 1,171,720 人 | 34,985 人 | 735 億円 |
| フィリピン | 885,023 人 | 725,219 人 | 82,530 人 | 358 億円 |
| シンガポール | 726,251 人 | 696,075 人 | 6,021 人 | 563 億円 |
| ベトナム | 678,594 人 | 193,315 人 | 448,219 人 | 954 億円 |
| インドネシア | 640,577 人 | 478,542 人 | 146,776 人 | 173 億円 |
| マレーシア | 636,575 人 | 605,663 人 | 14,633 人 | 291 億円 |
ベトナムは総数が約 68 万人なのに、観光客は約 19 万人なんですね。
そこが大事な点です。JNTO の統計では、留学や研修などで来た人は「その他客」に入ります。ベトナムはこの区分が約 45 万人と多く、観光客は 6 か国の中で最も少なくなります。観光の発信先を選ぶなら、総数ではなく観光客の欄を見てください。
観光客の数で並べ直すと、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシアの順になりますね。
その理解で合っています。一方、特産品では順番が変わります。農林水産省の集計だと、2025 年の農林水産物・食品の輸出額は、6 か国の中ではベトナムが 954 億円で最も多く、タイ、シンガポールが続きます。
観光と特産品で、候補になる国が違うんですね。
はい。ただ、輸出額にも注意があります。この金額には木材などの林産物や水産物も含まれます。たとえばフィリピン向けは、金額の上位が合板、たばこ、製材です。自分の地域の品目がその国に出ているかは、国別の品目の内訳で確かめてください。
統計を根拠にするときに確かめること
- 訪日外客数の総数には、留学・研修などの「その他客」が含まれる
- 国全体の数字であって、自分の県や市に来た人数ではない
- 輸出額には林産物・水産物も含まれる。品目の内訳を確認する
- 2026 年の月別の数字には推計値が含まれる。確定値の年を使う
- 引用するときは、出典を「日本政府観光局 (JNTO)」と明記する
国全体の数字だけでは、うちの市に合うかどうかまでは分かりませんね。
そのとおりです。国の統計で候補を 2〜3 か国に絞ったあと、地域の宿泊施設や観光案内所の記録で、その国の人が実際に来ているかを確かめます。すでに来ている国から始めるほうが、受け入れる側の準備も少なくて済みます。国が決まったら、次は原稿の言葉です。
現地語の原稿を用意する
原稿は英語で 1 本作れば、6 か国に使えますか?
使える国と、使いにくい国があります。JETRO の資料だと、公用語に英語が入っているのはフィリピンとシンガポールです。マレーシアは公用語がマレー語ですが、使われる言語に英語が挙がっています。タイ、ベトナム、インドネシアは現地語で出すのを基本にしてください。
市には英語のパンフレットしかありません。タイ語の原稿は翻訳に出すとして、日本語の原稿の段階で気を付けることはありますか?
自治体の原稿で直しておきたいのは 3 つです。地名に読みを添えること、行き方を最寄りの空港や主要な駅から書くこと、時期を年と月で書くことです。「県北」「例年どおり」のような、地元の人にしか通じない言い方は、翻訳しても伝わりません。
特産品のほうはどうでしょう。
特産品は、現地で買えるのか、日本に来たときに買えるのかを最初に書きます。現地の店で扱いがあるなら店の名前と場所を、まだ無いなら輸入してくれる相手を探している段階だと正直に書きます。
翻訳に出す前に日本語の原稿で直すこと
- 地名・施設名には読みを添え、表記を 1 つに統一する
- 行き方は、最寄りの空港や主要な駅からの経路と所要時間で書く
- 時期は「2027 年 4 月」のように年と月で書く
- 特産品は、現地で買えるか、訪日したときに買えるかを書く
- 問い合わせ先が対応できる言語を書く (日本語だけなら、その旨を書く)
問い合わせの言語まで書くんですね。
現地語の記事を読んだ人が現地語で問い合わせてきても、返事ができない場合があるからです。言語の決め方は、東南アジア向けプレスリリースは何語で出す?6 か国の公用語と判断の順番で国ごとに確認できます。原稿の言葉が決まったら、次は配信日です。
季節・イベントに合わせて配信日を決める
配信日は、原稿ができた日に出せばいいと思っていました。
観光の発信は、来てほしい月から逆算して決めます。桜や雪のように時期が決まっている素材は、その月に来る人が旅行を計画するころに届いていないと間に合いません。まず、国ごとに何月に来る人が多いかを見てみましょう。
| 国 | 最も多い月 (2025 年) | 2 番目に多い月 | 最も少ない月 |
|---|---|---|---|
| タイ | 12 月 (174,009 人) | 4 月 (158,470 人) | 8 月 (35,499 人) |
| フィリピン | 12 月 (115,557 人) | 11 月 (92,011 人) | 8 月 (44,209 人) |
| シンガポール | 12 月 (140,646 人) | 11 月 (89,393 人) | 8 月 (20,512 人) |
| ベトナム | 2 月 (73,813 人) | 3 月 (64,123 人) | 12 月 (43,696 人) |
| インドネシア | 12 月 (81,678 人) | 1 月 (63,230 人) | 8 月 (31,419 人) |
| マレーシア | 12 月 (100,582 人) | 1 月 (75,003 人) | 7 月 (18,112 人) |
6 か国のうち 5 か国は 12 月が一番多いんですね。ベトナムだけ 12 月が最も少ないのは意外です。
月別の数字は総数なので、ベトナムのように観光以外の人が多い国は、観光客の動きとは別だと考えてください。観光客が大半を占めるタイやシンガポールは、12 月と 8 月で数倍の差があります。冬の素材がある地域は、12 月に向けた発信から始めると統計と合います。
12 月に来てもらうには、何か月前に配信すればいいですか?
何か月前に旅行を決めるかは、国別のはっきりしたデータが見つかっていません。地域の宿泊施設に、その国の人の予約日から宿泊日までの日数を聞くのが一番確かです。たとえば 2〜3 か月前の予約が多いなら、12 月に向けた配信は 9 月から 10 月になります。
9 月か 10 月なら、年度内に掲載の記録も取れますね。
はい。年度が 4 月から翌年 3 月までの自治体なら、秋に配信すれば、掲載の記録も来訪する月も同じ年度に入ります。一方、桜の時期に向けて冬に配信すると、来訪は翌年度です。その場合、当年度の報告は「掲載まで」にとどめ、来訪は翌年度に確認すると最初から決めておきます。
手順
来てほしい月を決める。地域の素材 (雪、桜、祭り、収穫) が見られる月を、年を付けて書き出す
対象の国で、その月に訪日する人が多いかを JNTO の月別の統計で確かめる
地域の宿泊施設の予約データで、予約日から宿泊日までの日数を調べ、配信する月を決める
配信する週が現地の祝祭日や連休に重ならないかを、その年の公的な休日一覧で確かめる
掲載の一覧を受け取る日と、報告書の締切の間に余裕があるかを確かめる
現地の祝祭日も確認するんですね。
祝祭日は年によって日付が動くものがあるので、配信する年の一覧で確かめてください。国ごとの確認の手順は、東南アジア向けプレスリリースの配信日の決め方|祝日と重ねない確認手順にまとめてあります。配信日が決まれば、残りは報告書です。
成果報告書に載せる項目
年度末の報告書には、何を書けば成果として認められるんでしょうか?
「実施したこと」「載ったこと」「その後に起きたこと」を分けて書きます。この 3 つを混ぜると、掲載の数と来訪者の数が結び付いているように読めてしまい、質問されたときに説明できなくなります。
| 区分 | 載せる項目 | 記録の取り方 |
|---|---|---|
| 実施したこと | 配信日、対象の国、原稿の言語、費用 | 配信のたびに 1 行ずつ記録する |
| 載ったこと | 掲載された媒体名、記事の URL、掲載日 | 記事の画面を保存し、URL を一覧にする |
| その後に起きたこと | 自治体サイトへの国別のアクセス数、問い合わせの件数、宿泊施設の国別の宿泊者数 | 配信の前と後の同じ期間で比べる |
訪日客数が増えたことを、成果として書いてもいいですか?
国全体の訪日客数は、発信以外の要因でも動きます。発信の成果として書くのは避け、背景の数字として載せるにとどめるのが安全です。成果として書けるのは、掲載の一覧と、自分たちで測れる数字 (サイトのアクセス、問い合わせ、地域の宿泊者数) です。
それなら、配信する前の数字も取っておかないといけませんね。
そうです。配信の前に、比べる期間と項目を決めておいてください。報告のまとめ方は、海外 PR の効果測定を社内に報告する方法|東南アジアで数字にする 4 項目も参考になります。では最後に、現地のメディアに届ける手段を比べましょう。
東南アジアの現地メディアに届ける手段を比べる
現地の PR 会社との契約が重いなら、ほかにどんな方法がありますか?
大きく 4 つあります。公的機関の支援を使う、自分たちで直接送る、配信サービスを使う、PR 会社に委託する、です。
| 手段 | 向いている場合 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 公的機関の支援を使う | 初めてで、市場の情報や進め方から相談したい | 相談や研修が中心。募集の時期と対象を確認する |
| 自分たちで直接送る | 現地語が分かる職員や、交流のある都市がある | 送り先の一覧づくりと、現地語の校正を自前で行う |
| 配信サービスを使う | 年度内に、配信と掲載の記録を済ませたい | 対応する国と言語、掲載の条件、支払い方法を確認する |
| PR 会社に委託する | 複数年で、取材の誘致や現地での催しまで頼みたい | 見積もりと契約の手続きに時間を見込む |
公的機関の支援というのは、どこに相談するんですか?
観光なら JNTO です。バンコク、シンガポール、ジャカルタ、マニラ、ハノイ、クアラルンプールに事務所があり、インバウンドに取り組む自治体向けに、研修や市場別の個別相談を行っています。自治体国際化協会 (CLAIR) のシンガポール事務所も、東南アジアでの観光 PR や販路開拓の支援を掲げています。配信の前に相談しておくと、国の選び方を確かめられます。
配信サービスを使う場合、自治体の支払いの手続きに合うものでしょうか?
サービスによります。このメディアを運営している海外PR.jp の条件を事実として挙げると、料金は 1 か国・1 配信で 50,000 円 (税別)、支払いは請求書払い (銀行振込) です。翻訳は英語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語の 4 言語で、1 言語 20,000 円 (税別) です。1 か国に 1 言語で出す場合、合わせて 70,000 円 (税別) になります。
金額が先に決まっているなら、予算の説明はしやすいですね。報告書に使える記録は出ますか?
対応する国ではどの国でも 10 媒体以上の掲載を保証していて、掲載された媒体名と URL の一覧がレポートとして出ます。確認できるのは配信から 5 営業日が目安です。さきほどの表の「載ったこと」の欄は、この一覧をもとに作れます。時期によりキャンペーン価格の場合があるので、最新の料金は公式サイトで確認してください。
掲載されれば、観光客が増えると考えていいんでしょうか。
そこは約束できません。掲載は、現地の人が地域の名前を検索したときに、現地語の記事が出てくる状態を作るものです。来訪や販売につながるかは、受け入れの準備や価格、交通の便にも左右されます。また、請求書払いであっても、見積書が要るかどうかなど支出の決まりは自治体ごとに違います。契約の前に会計の担当に確認してください。
手段ごとの違いが分かりました。最後に、全体をまとめてもらえますか。
判断のまとめ
市の担当の方に、決める順番と確認先をそのまま渡したいです。
次の表にまとめました。統計や各機関の支援内容は毎年変わるので、使う前に公式のページで最新の内容を確認してください。
| 決めること | 判断の目安 | 確認先 |
|---|---|---|
| 観光の発信先 | 訪日外客数の総数ではなく、観光客の欄で比べる | JNTO 訪日外客統計 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/ |
| 特産品の発信先 | 国別の輸出額と、品目の内訳を見る | 農林水産省 輸出に関する統計情報 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/zisseki.html |
| 原稿の言語 | タイ・ベトナム・インドネシアは現地語、フィリピン・シンガポールは英語 | JETRO 国・地域別情報 https://www.jetro.go.jp/world/asia/ |
| 配信日 | 来てほしい月から逆算し、現地の祝祭日を避ける | JNTO の月別の統計、地域の宿泊施設の予約データ |
| 報告書 | 実施したこと、載ったこと、その後に起きたことを分ける | 掲載の一覧、自治体サイトのアクセス記録 |
| 相談先 | 初めてなら公的機関の相談から始める | JNTO 地域支援 https://www.jnto.go.jp/projects/regional-support/ |
1 年目は国を絞って記録を残すことを優先し、2 年目に国や回数を増やすかを、その記録をもとに判断してください。訪日客向けの発信は訪日客・自治体の発信に、タイに絞った進め方はタイからの訪日客の集客とメディア掲載|タイ語で伝える情報と配信日の決め方にまとめています。
よくある質問
複数の国に同時に出す場合、費用はどう考えればいいですか?
配信は国の数だけ、翻訳は言語の数だけかかる、と考えてください。翻訳した原稿を複数の国で使えるかどうかなど、細かい条件はサービスごとに違います。正確な金額は、各サービスの公式サイトか相談で確認してください。
観光と特産品は、1 本の原稿にまとめたほうがいいですか?
読む相手が違うなら分けます。観光の情報は旅行を考える人に、特産品の取り扱いの情報は輸入や小売の事業者に向けたものです。1 本にまとめると、どちらにとっても必要な情報が見つけにくくなります。予算が 1 本分なら、その年に優先するほうを選んでください。
2026 年の途中までの訪日客数を、国を選ぶ根拠にしてもいいですか?
参考にはなりますが、直近の月には推計値が含まれます。国を選ぶ根拠として資料に書くなら、確定値がそろっている 2025 年の年間の数字を使い、直近の動きは補足として添えるのが安全です。
参考にした公開情報
- 日本政府観光局 (JNTO) 国籍別 / 目的別 訪日外客数 (2004年〜2025年)
- 日本政府観光局 (JNTO) 国籍/月別 訪日外客数 (2003年〜2026年)
- 日本政府観光局 (JNTO) 訪日外客統計
- 農林水産省 2025年農林水産物・食品の輸出実績 (国・地域別)
- 農林水産省 農林水産物・食品の輸出に関する統計情報
- JETRO タイ 概況・基本統計
- JETRO フィリピン 概況・基本統計
- JETRO シンガポール 概況・基本統計
- JETRO ベトナム 概況・基本統計
- JETRO インドネシア 概況・基本統計
- JETRO マレーシア 概況・基本統計
- JETRO アジア 国・地域別に見る
- 日本政府観光局 (JNTO) 組織紹介
- 日本政府観光局 (JNTO) 地域インバウンド促進 支援事業
- 日本政府観光局 (JNTO) 地域インバウンド促進
- 自治体国際化協会 (CLAIR) シンガポール事務所
執筆・編集: 海外PR.jp 編集部 (VRI Creatives)。東南アジア・オーストラリア向けの、掲載保証付きプレスリリース配信サービスです。
本記事は各国の公的機関などの公開情報をもとに作成しています。各国のメディア事情・制度・祝祭日は変わることがあるため、 実施の前に最新の情報を確認してください。